愛すべき天敵
夜、バイトから帰宅。
「ただいま〜」と玄関先から声をかけ、靴を脱ぎかける。
明らかに小さい靴が1足…
えっっ?小さい靴??
我が家にはこんな小さい靴を履く輩は居りませんが…
瞬時に悟る、「姪」と言う肩書きを持つ
天敵襲来
。
コードネームは「MK」。
奴に掴まったら最後。その日の全てのパワーを吸い取られてしまうのだ。
宣戦布告とも取れるその小さな靴を見つめ、溜息とともに敵をどう欺くか作戦を練る。
最近の敵は、"成長に伴う知能の増加"により、少しのことでは簡単には騙されない。
こちらとしても心して掛からなければならないのだ。
「おね〜ちゃん、おかえり〜」
笑顔で迎えてくれる。
天使の笑顔
とはこのことだろう。どんなに疲れていても、この笑顔で吹き飛んでしまうと言うものだ。
しかし、侮ってはならない。この笑顔が、奴の最大の武器なのである。
油断をすると、骨抜き状態にされてしまうので注意が必要だ。
靴を脱ぎ、居間へと向かう。
本日、囚われの身となっているGF2号においては既に骨抜き状態である。
彼の場合、自ら志願して囚われの身となり、骨抜き状態にされているような気もしないことも無い。
GF2号が敵の相手をしているうちに、早く「夕食」と言う名のエネルギー補給をしなくては。
GF2号は、「とっ○こハム太郎のビデオ」攻撃を仕掛けている。
この攻撃、夜寝る前には効果が期待できる。
しかし、最近リピートのし過ぎで内容を覚えてしまったと言う弱点がある。
やはり、この攻撃の効き目は薄く、見たり見なかったりして2つの部屋をウロチョロし始めた。
この日のおかずであるフライを温めるのに思いのほか時間と手間がかかってしまい、エネルギー補給に大幅な遅れが出た。
敵は、こちらのエネルギー源に気が付き、こちらへと向かってきた。
ヤバい、ピンチである。
「おね〜ちゃ〜ん、MKもコレ食べる〜。」
非常にまずい状況になった。
ここで「はい、どうぞ。」とあげるわけにはいかない。
時計を見れば午後9時になろうとしている。
この時間帯からしても、敵は夕食を食べ、なおかつ入浴後のアイスといったおやつまで食しているであろう。
骨抜きにされているGF2号のことである。きっと、アイスの他にもいろいろなものを与えていることが予測できる。
こちらが答えを渋っていると、FG2号がMKに向かって言った。
「お前、自分ちでご飯食べた後、こっちに来てそば食べに行ったじゃん。
お風呂はいった後にアイスも食べたし…、ぶどうとチョコまで食べたじゃん。」
え…?
明らかに食べ過ぎじゃないんですか?
敵が狙っているのは、先ほど手間ひまかけて温めたフライ。しかも「ヒレカツ」といわれる高級食材である。
こんな時間帯に揚げ物など食せば、明らかにカロリー摂取オーバーであることは否めない。
カロリーオーバーはもとより、既に食べ過ぎである。
この非常事態にどう回避すれは良いか思考を巡らせる。
敵は今にも手づかみで食べようとする勢いでヒレカツを凝視している。
とにかくここは、視線をそらす作戦を敢行した。
「コロッケにしない…?」
我ながら、情けない作戦であることは十分に承知している。
ここで一言、「ダメ!!」と言ってしまえば事は足りるのかもしれない。
しかし、最近の敵はその一言が効かないのである。
しつこく食い下がった挙げ句、「ふて腐れる・甘える・泣きまね・逆切れ」などの技を駆使し、
どうにか野望を達成させようとするのである。
今回も例に洩れず、しつこく食い下がってくる。挙げ句「コロッケって何?」ととぼける始末。
ここで折れてはなるまいと、次の作戦を実行しようとした時、
GF2号の
「しょうがねぇなー。フォーク持ってきてやるから待ってろ」
の声。
え…?
今なんとおっしゃいました??
爺バカならぬ、「馬鹿ジジイ」である………
GF2号の爺バカ発言によって、こちらの中で組み立てられた作戦は失敗に終わったのである。
この言葉がきっかけになり、MKはこちらのエネルギー源を食べ散らかして去って行ったのである。
その後、帰宅したGM2号にまで「おなかすいた〜」攻撃を仕掛け、「イチジク」と「梨」まで食したのである。
開いた口が塞がらない……。底なし沼の胃袋である。
普段食事を貰っているのか心配したくなるほどの食べっぷりである。
こうなったらやめろと言った所でやめない。もはや白旗をあげて見守るしか無いのである。
数10分後、迎えが来た。
「いい加減にしなさい!」
母は強し、その一言で強制終了。
そこで「おなかすいた〜」攻撃を仕掛けると愛の鞭が飛んでくるため、敵も我慢する。
敵も、攻撃を仕掛ける人間をわかっているのである。
この時点で、こちらが仕掛けられると言うことは、奴に対して「甘い」のだろう。
それは十分自覚している。
それでも、叱る時は一番厳しいらしい。(GF2号談)
基地へと戻って行くMKを見送る。
可愛い笑顔で「またきてもいい?」なんて言われた日には「いいよ」としか言えないのがこちらの弱さである。
結局何を言われても、こちらの負けは決まっているのである。
それでも、玄関先に小さな靴を見つけるたび、今日こそは…!と思い続けている日々である。
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